研究紹介

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1. 物質生産プロセスの強化

1.1 亜臨界水の利用

亜臨界水は明確に定義されていないが、当研究室で「150℃以上、臨界点温度以下において加圧により液体状態を保った水」を亜臨界水としている。この状態の水は常温状態の水と比較して、イオン積が100〜1000倍大きくなることから加水分解作用を持つ。また、比誘電率が小さくなり疎水性物質を溶解しやすくなる。このような性質の亜臨界水を利用した反応は、安価で安全な水を利用した非常に“green”なプロセスであり、現在では廃棄物の再資源化や、バイオ燃料製造の分野などでの応用法が期待されている。 環境に負荷をかけないプロセスの構築が期待される亜臨界水であるが、亜臨界水そのものの物性の評価はあまり報告されておらず、より効率のよい運用には基礎的な知見が不可欠である。本研究では、酸感受性の二糖であるスクロースを亜臨界水反応により分解させ、その分解速度などを詳細に解析し、亜臨界水中での酸成分状態を把握しようとしている。これにより、亜臨界水中での酸、アルカリイオンの状態をより詳細に知ることが期待される。

1.2 マイクロキャピラリーにおける反応分離場の開発

石油代替燃料としてバイオディーゼル燃料(BDF)が注目されている。BDF生産時の副生成物であるグリセリンは現在供給過剰状態にあり、有効な用途が見つかっていない。最近、アルカリ添加した亜臨界水によりグリセリンを処理すると、乳酸に転換できることがわかってきた。乳酸は重合することで生分解性のプラスチック原料であるポリ乳酸を合成できるため有用な物質である。そこで本研究室ではマイクロ流路において亜臨界水条件に瞬間的に温度シフトすることにより、グリセリン分解時の副生成物生産の抑制をしつつ、乳酸を高効率(2 minで90%超の収率)を得ることに成功した(5)。これは不要な反応を回避する意味でプロセス強化に位置づけられる。また、水/有機溶媒からなる二相系をスラグ流として用いると、反応抽出が効果的に実現できることも示した(1,2,4,6)。これは内部循環流が物質移動を促進することによることを示した。
((1) T. Shimanouchi et al., Solv. Extr. Res. Dev. Japan, 31(2), 67-75 (2024), (2)T.Shimanouchi et al., Solvent Extr. Res. Dev., Jpn., 28, 21-35 (2021), (3) T. Shimanouchi et al., J. Chem., Article ID 3985915 (9 pages) (2019), (4) T. Shimanouchi et al., AIChE J., 62, 2135-2143 (2016), (5) T. Shimanouchi et al.,Chemistry Letters, 43(4), 535-537 (2014), T. Shimanouchi et al., Solv. Extr. Res. Dev., Japan, 20, 205-212 (2013))
                

1.3 ソフト界面上での機能場の創出

ソフト界面の代表的なものとして脂質二分子膜がある。その閉鎖系小胞を特にベシクルと呼ぶ。ベシクル表面上でHWE反応の制御が可能であることを示した(1)。
((1) T. Shimanouchi et al., Chemistry Letters, 52, 426-429 (2023), (2) T. Shimanouchi et al., Compounds, 2, 321 (2022), (3) T. Shimanouchi et al., Journal of Bioscience and Bioengineering, 128, 198-202 (2019))

2. (超)分子系の自己組織化プロセスの強化

2.1 亜臨界水乳化法の高度利用によるナノエマルション/ナノサイズベシクル/ナノカプセルの創製

現在、ナノエマルションの調製法には超音波ホモジナイザーなどでシェアストレスをかけるトップダウン方式の調製法が用いられている。しかし、粒径を小さくするのに限界があり、近年、溶解した均一相からの析出を利用したボトムアップ方式の開発が重要視されている。ボトムアップ方式はいまだ研究段階であるがナノオーダーでの粒径制御が期待されている。このことから本研究では新しいボトムアップ方式のナノエマルション調製法である亜臨界水乳化法に着目した。亜臨界水は通常の水とは異なる性質(低い比誘電率と高いイオン積)を有している。比誘電率の低下は極性物質の溶解を促進する。亜臨界水乳化では、この性質を利用し、油相を亜臨界水に溶解し、油相が溶解した亜臨界水に常温の界面活性剤水溶液を混合して温度を下げることで水から分離してくる油の滴を界面活性剤により安定化し、O/Wナノエマルションが調製できる。そこで本研究室では上述のプロセスに加えて、レイリー・テイラー不安定性を加味してエマルションのナノサイズ化に成功した(3,4)。さらに、100 nm前後のサイズのW/O/Wエマルションの形成にも成功した(2)。溶媒拡散法を組み合わせることにより、球状ベシクル(2)や多面体ベシクル(1)の形成が可能であることも示した。
((1) T. Shimanouchi et al., Appl.Sci.,13,6893 (2023), (2) T. Shimanouchi et al., Coll. Surf. B, 205, 111836 (2021), (3) T. Shimanouchi et al., Solvent Extraction Research and Development, Japan, 21, 223-230, (2014), T. Shimanouchi et al., Solvent Extraction Research and Development, Japan, 21, 191-199, (2014))

3. 多機能性材料の開発と機能強化

3.1 界面を利用した秩序構造形成過程のプロセス強化

ベシクル、脂質膜、あるいは高分子膜界面は水和構造、親水性、ならびに疎水性構造が混在した領域であり、タンパク質やペプチドなどの高分子の吸着と構造形成過程に大きな影響を与える。たとえばアミロイド形成現象や結晶化現象が最たる例であり、バルク水相よりも界面領域での形成速度や形態に顕著な違いがみられる。当研究室では、アルツハイマー病関連タンパク質であるAβが球状アミロイド性凝集物(スフェルライト)を形成することを見出している。これは二次核化現象のひとつとみなすことがであり(7)、その誘導環境として、負電荷脂質と伸長性短線維の共存(8)、酸化脂質含有負電荷リポソームの共存(7)、糖脂質誘導体含有リポソームの共存(2)が挙げられる。さらに脂質組成がアミロイド形成に与える影響を43種類の組成に亘り網羅的かつ系統的に調査したMembranome研究も報告している(1,3)。
((1) T. Shimanouchi et al., BBA-Proteins and Proteomics, (2023), (2)T. Shimanouchi et al., BBA-Proteins and Proteomics, 1870, Article number:140816 (2022), (3) T. Shimanouchi et al., Appl. Sci., 11(10), 4408 (2021), (4) T. Shimanouchi et al., Coll. Surf. B, 116, 343-350 (2014), (5) V.T. Huong et al.,Biochem. Eng. J.,71, 118-126 (2013),(6) T.Shimanouchi et al., Biochem. Eng. J., 71, 81-88 (2013), (7) T.Shimanouchi et al., AIChE J., 58(12), 3625-3632 (2012),(8) T.Shimanouchiet al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 426, 165-171 (2012)

3.2 亜臨界水処理によるバイオマス由来機能性材料の開発

亜臨界水を用いてバイオマスから有用成分の抽出に関する研究が盛んである。当研究室では、抽出後の固体残物の利用について検討した。成分分析法を検討し(5)、チャーの作製とその燃焼特性を広範囲に調査してきた(6-9)。たとえば、中国産山核桃の殻から炭水化物を抽出した後、固体残物とスターチを混合して、生分解性を持つ発泡体の調製に成功した (4)。また、セルロース/リグニン/水の3成分系を亜臨界水条件で成形することで薄層を得た。混合割合により表面の誘電率や起伏度を変化させることが可能であり、結果として撥水性に影響を与えることが分かった (3)。そこで、セルロースにPLLAを化学的に導入することで、表面の撥水性を大幅に向上させることに成功した。この材料の6年間に亘る分析により、安定性も高いことが実証された。また疎水性が高く粒径の小さいナ高分子ナノ粒子を移流集積現象に基づき表面改質すると、上記のPLLA導入セルロース材料と同程度に撥水性を近づけることができ、6年以上の安定性を実証した(1)。
((1) T. Shimanouchi et al., submitted. (2) T. Shimanouchi et al., Polymer Science Peer Review Journal, in press (2021), (3) T. Shimanouchi et al., Appl. Surf. Sci., 347, 406-413 (2015), (4) W. Yang et al., Journal of Chemical Technology and Biotechnology, 90, 44-49, (2015) (5) T. Shimanouchi et al., Environ. Eng. Res., 19(1), 41-45 (2014), (6) Shengji Wu et al., BioResuources, 12(4), 8629-8640 (2017), (7) Wei Yang et al., Desalin. Water Treat., 53(10), 2831-2838 (2015), (8) Wei Yang et al., ACS Sustainable Chem. Eng., 3(4), 591-598 (2015), (9) Wei Yang et al., Fuel, 146, 88-94 (2015))

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